50人の壁おさえておきたい8つの衛生管理業務

50人を超えたら何が必要? 押さえておきたい8つの衛生管理業務

企業が行う衛生管理は労働安全衛生法で定められています。初めて衛生管理者や産業医を選任する企業にとっては、何から手をつければよいのか不安に思うかもしれません。50人を超えてから慌てて衛生管理体制整えていくのは大変な作業です。今のうちから、50人を超えると何が変わるのか、何をしなければいけないのか、ポイントをおさえましょう。

衛生管理体制の構築に関する課題はエリクシアで解決
この記事でわかること(目次)
  • 50人を超えたら何が必要? 押さえておきたい8つの衛生管理業務
  • 10人以上50人未満の会社がやる衛生管理
  • 対応必須!50人未満の会社でも義務となる衛生管理
  • やっておくと望ましい(≒努力義務)とされる衛生管理
  • 50人を超えたら対応必須!8つの衛生管理業務
  • 衛生管理者の選任について
  • まとめ
  • すべて表示 

    10人以上50人未満の会社がやる衛生管理

    8つの衛生管理業務を説明するまでに、まず労働者数が常時10人以上50人未満の事業場においても対応してきたい衛生管理について説明します。必ず対応しないといけない「義務」と、できれば対応しておきたい「努力義務」がありますので詳しく見ていきましょう。

    対応必須!50人未満の会社でも義務となる衛生管理

    50人未満の会社でも義務になる衛生管理は4つあります。順に見ていきましょう。

    ①健康診断の実施

    雇い入れ時健康診断定期健康診断は事業場の規模に関わらず、すべての会社で実施することが義務付けられています。また、深夜業務や有害業務に従事する従業員がいる場合は、別途特定健診や特殊健診を実施することも定められています。自社の業態に合わせて、適切な健康診断を100%受診させることが重要です。

    なお入社日より過去3か月以内に実施した健康診断の結果がある場合でかつ、雇入時の健康診断の項目を満たしている場合には、その結果を雇入時の健康診断の結果として利用することができます。(労働安全衛生規則第43条)  

    ②医師からの意見聴取と事後措置の実施

    労働安全衛生法では、事業者に対して、健康診断で異常所見があった労働者に対して、必要な措置について医師から意見を聴取することを義務付けています。産業医を選任していない場合は、近くの診療所などの医師(できれば産業医)や、独立行政法人労働者健康安全機構が運営する地域産業保健センターを利用して医師から意見を聴取するようにしましょう。

    ③長時間労働者への医師による面接指導

    労働者数が常時50人未満の会社であっても、時間外労働が長時間に及ぶ労働者がいる場合には、疲労の蓄積状況の確認など、医師による面接指導を行う必要があります。
    具体的には、事業者は時間外労働時間や休日労働時間が月80時間を超え(※)、疲労の蓄積が認められる者から面接の申し出があれば、医師との面接指導を必ず行います。

    ※休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間

    ④衛生推進者の選任 ※労働者数が常時10名未満の会社は対象外

    労働者数が常時10名以上50人未満の会社では、労働安全衛生法で、「安全衛生推進者」か「衛生推進者」を選任することが義務付けられています。また、選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任し、作業場の見やすい箇所に掲示する等により、社内に周知しなければなりません。(所轄労働基準監督署への報告は必要ありません。)

    安全衛生推進者か衛生推進者のどちらを選任するのかは業種区分によって異なります。

    ■安全衛生推進者を選任すべき業種区分
    林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業

    ■衛生推進者を選任すべき業種区分
    上記にあてはまらない業種区分の場合

    安全衛生推進者、衛生推進者の職務内容は以下の通りです。

    ・労働者の危険または健康障害を防止するための措置に関すること
    ・労働者の安全または衛生のための教育の実施に関すること
    ・健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること
    ・労働災害の原因の調査および再発防止策に関すること
    ・安全衛生に関する方針の表明に関すること
    ・労働安全衛生法第28条の2第1項又は第57条の3第1項及び第2項の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置に関すること。
    ・安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること。

    参照 厚生労働省 職場のあんぜんサイト

    また、選任して終わりではなく、安全衛生推進者や衛生推進者を選任したら、掲示やポータルなどで労働者に周知する必要があります。

    やっておくと望ましい(≒努力義務)とされる衛生管理

    50人未満の会社で努力義務とされている衛生管理は、ストレスチェックの実施と健診結果に基づく保健指導の実施の2つです。

    ①ストレスチェックの実施

    労働者数が常時50人未満の事業場ではストレスチェックの実施は努力義務とされています。また、ストレスチェックを実施したとしても労働基準監督署への報告書の提出義務はありません。しかし、労働者のストレス状況を把握し、職場環境の改善につなげるためにもストレスチェックを実施することが望ましいとされています。

    ②健診結果に基づく保健指導の実施

    健診結果に異常所見がある労働者に対して、医師や保健師による保健指導を実施することが努力義務としてあります。地域産業保健センターでは、健康相談窓口を開設しており、労働者の健康管理や産業保健に関する相談を受け付けています。

    参照 独立行政法人労働者健康安全機構が運営する地域産業保健センター 地域窓口

    ※その他50人未満の小規模事業所における安全衛生管理の基本はこちらの記事でも解説しています。
    50人未満の小規模事業所でも知っておきたい、安全衛生管理の基本

    50人を超えたら対応必須!8つの衛生管理業務

    それでは、労働者数が50人を超えたら対応必須となる8つの衛生管理業務を詳しく見ていきましょう。常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、衛生管理上の対応義務が新たに発生していきます。次の項目でひとつずつ確認していきましょう。

    産業医の選任

    まずは、産業医の選任を行う必要があります。産業医とは「事業場において労働者の健康管理等について専門的な立場から指導・助言を行う医師」です。労働者数が常時50人以上の事業場においては産業医の選任が義務付けられており、選任する産業医の人数は事業場の労働者数によって異なります。

    事業場の労働者数と産業医の選任人数ーエリクシア産業医

    ※労働者が常時1000人以上の会社や一定の有害業務など特殊業務に常時500人以上従事している会社では、専属産業医の選任が必要
    ※「50人以上」とはパートやアルバイト、派遣社員なども含む
    ※ 事業場とは、同じ場所で相関連する組織的な作業をする場所の単位。同じ会社であっても、支店、支社、店舗ごとに1事業場となる

    衛生管理者の選任

    労働者数が常時50人以上の事業場は衛生管理者を選任しなければいけません。衛生管理者とは、「労働条件、労働環境の衛生的改善と疾病の予防処置等を担当し、事業場の衛生全般の管理をする者」で労働安全衛生法に基づいた国家資格となります。衛生管理者のミッションは「労働災害や健康障害を防止する」ことです。そのために、職場巡視を通じた作業現場の確認や、労働者の健康管理、労働者への衛生教育、衛生委員会の運営を行うことが衛生管理者のお仕事です。

    職場の安全衛生管理者も事業場の労働者数によって選任人数が異なります。

    事業場の労働者数衛生管理者(衛生推進者)の選任人数
    10~50人未満衛生推進者を選任
    50~200人1名以上
    201~500人2名以上
    501~1000人3名以上
    1001~2000人4名以上
    2001~3000人5名以上
    3001~6名以上

    産業医と衛生管理者の選任をしたら、選任事由(労働者が50人を超えたなど)が発生してから、14日以内に選任し、遅滞なく事業場を管轄している労働基準監督署へ選任報告書を提出しましょう。

    衛生委員会の設置

    衛生委員会とは、従業員が心身ともに健康で活き活きと仕事ができる環境を整えるために、経営層や人事・総務と現場の社員が議論をする場です。労働作業現場の課題を共有し具体的な解決策を話し合います。労働者数が常時50人以上の事業場は、月1回以上開催しなければなりません。また、衛生委員会の構成メンバーには決まりがあり、議長、衛生管理者、産業医、衛生委員です。ただし、人数については法令上の定めがなく、労働者側の委員が半数以上になるように構成されていれば、事業場の規模や作業の実態に即し適宜決定して差し支えありません。労働者側は労働者代表の推薦を受ける形になります。また、衛生委員会で話し合われた内容は、衛生委員会の透明性を確保するため、議事録を作成し、労働者に周知します。

    定期健康診断結果報告書の提出

    健康診断の実施は全ての会社で義務付けられていますが、労働者数が常時50人以上の事業場は、管轄の労働基準監督署へ「定期健康診断結果報告書」の提出を行う必要があります。報告は労働者数が50人を超えている事業場単位で提出する必要があります。また報告は厚労省指定の様式を用いることとなっています。「定期健康診断結果報告書」内に、受診労働者数、有所見者数など集計し記入する箇所がありますので、健康診断実施機関や健保へ集計依頼が可能か確認しておくとよいでしょう。

    参照 厚生労働省 各種健康診断結果報告書 様式

    ストレスチェックの実施・結果の提出

    労働者数が常時50人以上の事業場は、ストレスチェックの実施と報告も義務付けられています。事業場としての実施基準となる「常時50人」には、契約社員やアルバイト、パート、派遣社員も含みますが、健康診断の実施対象と同じです。ストレスチェックは実施するだけでなく、高ストレス者と判定された人が面談を希望する場合は、産業医面談を設定することも会社の義務となります。また、実施義務が生じた事業場は、実施後に労働基準監督署へ「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を提出する必要があります。

    参照 厚生労働省 心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書様式

    休養室の設置

    休養室は見落としがちな対応です。労働安全規則618条において「事業者は、常時50人以上または常時女性30人以上の労働者を使用するときは、臥床(=横になれる)することのできる休養室または休養所を男性用と女性用に区別して設けなければならない」と決められています。

    まれに、休憩室があるから大丈夫と思われている会社もありますが、休養室は休憩室のようなテーブルと椅子がおいてあるスペースとは異なり、設置規定が明確に2つありますのでおさえておきましょう。

    1.労働者が横になって休養できること
    2.男性用と女性用を区別して設置すること

    安全管理者の選任

    安全管理者の選任については業種区分にもよりますが、危険業務が生じる事業場では選任が必要となります。選任が必要な業種は以下の通りです。

    林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業

    必要とする業種が限定的であることや、同じ業種でも業務内容によって必要ないこともあるため、自社の事業場が該当するか不安な場合は、所轄の労働基準監督署に確認すると確実です。

    障害者雇用

    障害者雇用は、障害者雇用促進法に基づき、令和6年(2024年)4月から常時雇用している労働者数の2.5%以上の障害者を雇用しなければなりません。また、令和8年(2026年)7月からはさらに2.7%へ引き上げられます。
    雇用率未達成の際には、納付金の徴収がなされます。なお、親会社が障害者を多数雇用するなど、一定の要件を満たす会社は企業全体での雇用率適用も認められていますので、詳細は厚労省リーフレットをご覧ください。

    ※雇用率は、段階的に引き上げ。
    ・令和6年(2024年)4月~
     法定雇用率:2.5%
     障害者雇用の対象となる事業主の範囲:従業員40人以上
    ・令和8年(2026年)7月~
     法定雇用率:2.7%
     障害者雇用の対象となる事業主の範囲:従業員37.5人以上

    参照:厚生労働省 障害者雇用のルール

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    衛生管理者の選任について

    2つめの業務に記載の通り、常時50人以上の労働者を使用する事業場は、社内で衛生管理者を選任しなければいけません。最後に、衛生管理者の資格の種類や取得方法、取得後の流れについて確認していきましょう。

    衛生管理者の資格要件

    まず、衛生管理者の資格取得の要件は以下のいずれかを満たす必要があります。

    ・大学または高等専門学校(短大を含む)を卒業し、労働衛生の実務経験が1年以上ある
    ・高等学校を卒業し、労働衛生の実務経験が3年以上ある
    ・労働衛生の実務経験が10年以上ある
    ※労働衛生の実務経験の確認として事業者証明書が必要

    一種と二種どっちを取る?

    衛生管理者の資格は国家資格で第一種と第二種があります。事業場の業種によっては第二種では選任できない場合があるので注意しましょう。

    第一種衛生管理者
    第一種衛生管理者の免許を有する者は、すべての業種の事業場において衛生管理者となることができる。

    第二種衛生管理者
    第二種衛生管理者の免許を有する者は、有害業務と関連の少ない情報通信業・金融・保険業・卸売り・小売業など一定の業種においてのみ衛生管理者になることができる。

    資格取得から報告までのフロー

    衛生管理者は公益財団法人安全衛生技術試験協会の行う国家試験に合格する必要があります。試験は全国7ブロックの安全衛生技術センターで、毎月1~5回程度開催されています。試験2週間前までに受験申し込みをする必要があります。合格率は例年、第一種は50%前後、第二種は50~60%前後です。合格後は都道府県労働局および各労働基準監督署にある免許申請書に必要事項を記入し、合格通知と必要書類を添付の上、労働局長に免許の申請を行います。

    衛生管理者の取得をする際は、準備や勉強時間なども含めて、2~3か月前から余裕をもって取り組むようにしましょう。

    ※衛生管理者の資格に関しては、こちらの記事で解説しています。
    衛生管理者資格、どちらを取得するべき?1種と2種の違い

    まとめ

    労働者数が50人を超えると、衛生管理者や産業医の選任にとどまらず、衛生委員会設置、定期健康診断結果やストレスチェック報告書の提出、休養室の設置、障害者雇用など多くの業務が発生します。会社によっては人事総務担当者が一人で衛生管理をコントロールしていることも多くあります。ゼロからでも速やかに確実な衛生管理体制づくりを行うためには、産業医の意見や、紹介会社のサポートを受けることもおすすめです。

    エリクシアでは衛生委員会の立ち上げ、衛生管理体制に必要な各種ひな形の提供等、安心して運用ができる体制づくりのサポートを行っています。衛生管理体制づくりでお困りごとがありましたら、エリクシア産業医までお気軽にご相談ください。>ご相談はこちらから

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      この記事の執筆者:エリクシア産業保健チーム

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      この記事は、株式会社エリクシアで人事のお悩み解決に携わっている産業保健師チームが執筆し、産業医が責任をもって添削、監修をしました。

      株式会社エリクシアは、嘱託産業医サービスを2009年より提供しています。衛生管理体制の構築からメンタルヘルス対策、問題行動がある社員への対応など「圧倒的解決力」を武器に、人事担当者が抱える「ヒトの問題」という足枷を外す支援を行っています。

      【記事の監修】
      産業医 上村紀夫
      産業医  先山慧

      本記事の内容に関するお問い合わせ、記事転載や報道関連のお問い合わせは下記ページよりお問い合わせください。

      https://www.elixia.co.jp/contact/

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