デスクワークの効率が上がる!VDT作業環境の基礎知識 2022/06/10 2022/06/14 産業保健コラム デスクワークに潜む危険―VDT症候群 「最近、特定の部署の業務効率が下がってきている」「目の疲れや肩こりなどの不調を訴える従業員が多い」「憂うつそうな従業員が多く、職場に活気がない」 これらの状態はぱっと見ると別のことに見えますが、背景には共通事項として、長時間のVDT(情報機器)作業があるかもしれません。 IT化が進み、情報機器を使っての作業は私たちが仕事をする上で欠かせないものになりました。長時間パソコンなどの情報機器を注視していると、目の疲れや肩・腰の痛み、さらに人によっては気分が落ち込むといった「VDT症候群」が発生しやすくなるため、企業としては対策が必要です。 厚生労働省は、情報機器を扱う労働者の健康を守るために「VDTガイドライン」を提供しています。今回はガイドラインの内容を踏まえて、VDT作業に適した環境づくりの基本から、テレワークの従業員への対策についてご紹介します。 この記事でわかること(目次)デスクワークに潜む危険―VDT症候群従業員の健康に影響を与えるVDT作業VDT作業とは?誰にでも起こりうるVDT症候群企業が実施できる対策4つ-VDTガイドラインをわかりやすく解説!-①作業管理②作業環境管理③健康管理④安全衛生教育テレワークの従業員にもVDT対策は必須!自宅環境を整えてテレワークも効率的にまとめすべて表示 従業員の健康に影響を与えるVDT作業 厚生労働省が実施した「技術革新と労働に関する実態調査※」によると、VDT作業を行っている労働者のうち、「精神的疲労を感じている」割合が34.6%、「身体的疲労を感じている」割合が68.6%にも上りました。 身体的疲労の中でも、「目の疲れ・痛み」が90.8%と最も多く、次いで「首・肩のこり・痛み」が74.8%。「腰の疲れ・痛み」が26.9%となっていました。 日々の情報機器を使った作業の影響で心身の不調が発生し業務効率の低下につながることは、データからもしっかりわかります。また、稀な事例ですが、過去にはVDT作業による影響で起きた眼精疲労や腱鞘炎などで労災が認められた事例もあります。 会社として従業員が心身ともに健康に働ける環境を作ることはもちろん、業務の効率アップや会社のリスク回避といった側面からも、VDT作業について見直すことが大切です。 ※厚生労働省「技術革新と労働に関する実態調査」2(3)精神的な疲労や症状の状況2(4)身体的な疲労や自覚症状(2008)より VDT作業とは? 厚生労働省によると、VDTとは「Visual Display Terminals」の頭文字を取ったもので、ディスプレイやキーボードなどで構成される出力装置のことを指します。具体的には、デスクトップ型パソコンやノート型パソコン、タブレット端末、スマートフォンを指します。これらの情報機器を使用して行う作業全般のことをVDT作業と呼びます。 なお、2019年のガイドラインからは、一般的になじみがないことと上記以外にも様々な情報機器が使用されていることを踏まえて、「VDT」という名称は使用せず「情報機器」と表現しています。 誰にでも起こりうるVDT症候群 VDT症候群は、情報機器を使用した作業を長時間続けることによって生じる健康障害の症状で、大きく分けて「目」「身体」「心」の3つの症状に分けられます。 「目」の症状は、近距離で長時間ディスプレイを見続けることや、瞬きの回数が減ることによって起こります。具体的には、目の疲れ、ドライアイ、かすみ目、視力低下、充血などがあります。VDT作業中は瞬きの回数が通常の4分の1になると言われており、ドライアイになることが多いため目の症状を誘発します。意識的に瞬きをしたり、目を閉じたりするだけでも対策として有効です。 「身体」の症状は、VDT作業で長時間同じ姿勢を続けることによって起こります。具体的には、首・肩のこり、背中のだるさ、腰痛、手指のしびれなどがあります。 「心」の症状は、VDT作業に集中しているため人との会話が減ることや正確さやスピードが求められること、デスクワークなど長時間同じ場所で作業し続ける際の負担によって起こります。具体的には、不眠や抑うつ感、イライラ、無気力、食欲不振などがあります。 VDT作業の一番の原因は、パソコンなどのVDT作業が長時間続くことです。特に近年、スマートフォンやタブレット端末が普及したことで、仕事の時間だけでなくプライベートにおいても情報機器を使用する時間が長くなっています。自身で対策することに加え、会社としてもVDT作業による心身の不調を予防するために、意識的に対策をしておきたい重要なテーマと言えるでしょう。 企業が実施できる対策4つ-VDTガイドラインをわかりやすく解説!- 厚生労働省は、パソコンなどの情報機器を使用する労働者の負担を軽減するために「VDT作業環境における労働衛生管理のためのガイドライン」を2002年に公表しています。 その後、17年を経て職場のIT化が進み、情報機器を使用しての作業が増大・多様化したことや高齢の労働者も含む幅広い年齢層での情報機器作業の拡大を受けて、2019年に「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」として大幅に改正されています。(2021年12月にも一部の内容が改正されています。) 最新のガイドラインを踏まえ、会社が実施できる対策①作業管理②作業環境管理③健康管理④安全衛生教育の4つについて確認しておきましょう。 ①作業管理 ガイドラインは、1日に4時間以上の情報機器作業を行う労働者を対象としており、原則として作業管理についての対策を優先的に行うように定めています。企業としては、作業時間や業務量が適切であるかどうかを管理し、以下の内容について従業員に指導しましょう。 ■作業時間を適切に 連続作業時間は1時間を超えないようにすることが大切です。連続作業の間には、10~15分の作業休止時間を設けるようにしましょう。また、連続した作業の時間の中でも1~2回程度の小休止をとることが望ましいです。小休止の際には、遠くの景色を眺めたり、VDT作業以外の作業を行ったりして目を休めましょう。適宜ストレッチなどで体を動かして身体の緊張をほぐすことも大切です。 ■疲労感を軽減できる姿勢を 座る際は、椅子に深く腰かけ、背もたれを十分に当て、足の裏全体が床に接した姿勢で作業を行いましょう。なお、座ってばかりではなく、ときどき立位になって作業することが望ましいとされています。 最近では立ったままパソコン作業ができるようなデスクを設置する会社もありますが、そのような環境が無い場合には、コピーを取りに行ったりトイレに行ったりするなど、適宜席を離れて体を動かすと良いでしょう。小休憩の際にストレッチを行って身体の緊張をほぐすこともおすすめです。 ■ディスプレイとの視距離は40㎝以上確保 ディスプレイと目の距離は40㎝以上確保することが望ましいとされています。ディスプレイの高さは、ディスプレイの上端が目と同じ高さかやや下になるように調節し、キーボードは自然に手が届く位置に配置しましょう。 ②作業環境管理 作業環境管理では、特に目の疲れを防ぐ作業環境作りが大切です。ここでは、ガイドラインに記載されている、照明・採光で注意すべき点について説明します。 目の疲れを感じる原因の一つに「まぶしさ」があります。まぶしさは、視界の中で明るいところと暗いところの差が激しいと強く感じやすいので、できる限り「明るさの差」を減らしていくことがポイントです。なおガイドラインによると、ディスプレイを使用する際、書類やキーボード上における照度は300ルクス以上にすることが望ましいとされています。そのため、まぶしさを感じないように、周辺の明るさも調節する必要があります。 また、ディスプレイに太陽光や照明の光が反射することで、「グレア」が発生します。「グレア」とは、太陽光や照明によって起こる不快感や物の見えづらさを生じさせるまぶしさのことです。グレアを防止するためには、以下のような対策が有効です。 ・必要に応じて窓にブラインドやカーテンなどを設置・間接照明などのグレア防止照明器具を使用する・ディスプレイの位置・前後の傾き、左右の向きなどを調節する ③健康管理 VDT作業を行う従業員の健康障害を防止するために、普段から従業員の健康状態を把握しておく必要があります。そのために、健康診断を活用しましょう。 まずは、雇入れ時の健康診断で配置する前(VDT作業に従事する前)の健康状態を把握しておきましょう。その後は、定期健康診断でVDT作業による健康障害が起きていないかを定期的に確認します。必要な従業員には、追加で健康診断を勧めるとともに、適切な対策を行う必要があります。 ④安全衛生教育 VDTガイドラインでは、多種多様な作業形態に応じて一律に対策を行うのではなく、それぞれの作業内容に応じて健康に影響する要因を特定するなど、リスクアセスメントの実施が求められています。 しかし、企業が従業員一人ひとりの作業形態と特性についてアセスメントを実施することには限界があると言えます。そのため、従業員個人が自身の作業環境や作業内容において、VDT症候群のリスクとなるものに気づき、適切に対処できるようにすることが大切です。企業は、①作業管理②作業環境管理でご紹介した内容について安全衛生教育を行うとよいでしょう。 ※安全衛生教育についてはこちらの記事で解説しています。雇入れ時と作業内容変更時の安全衛生教育を実施して労働災害を防止しましょう! テレワークの従業員にもVDT対策は必須! 新型コロナウイルスの蔓延によって、テレワークが普及してきました。 オフィス以外で働く従業員にも労働関係法令が適用される一方で、テレワークをする従業員の作業環境を把握はなかなか難しくなりました。また、オフィスでは、コピーを取りに行ったり会議室へ部屋を移動したりするなど、意外と身体を動かす機会がありますが、テレワークになると移動は減り、これまで以上に情報機器作業を長時間で行う可能性が高くなるため、しっかり対策しておきましょう。 もう一つ懸念点として、オフィスでは他のメンバーと直接会話することができましたが、テレワークではメールやチャット、ビデオ会議などのコミュニケーション方法に限られます。コミュニケーションがとりづらいことへのストレスや一人で作業をしている孤独感などが発生し、精神的な不調につながることも考えられます。 自宅環境を整えてテレワークも効率的に 厚労省では、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン※」を定めています。 自宅でもオフィスと同じレベルの作業環境になるように従業員に指導を行うようにしましょう。 ※厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」 ■テレワークを行う際の作業環境のポイント部屋:作業を行うのに十分な空間を確保する。転倒しないように整理整頓する。窓:空気の入れ替えを行う。ディスプレイに太陽光が入射する場合は、窓にカーテンを設ける。机・椅子・PC:目・肩・腰に負担がかからないように、机・椅子やディスプレイ・キーボード・マウスなどを適切に配置し、無理のない姿勢で行う。照明:作業に支障がない十分な明るさにする。室内・湿度:冷房・暖房・通風などを利用して、作業に適した温度・湿度となるように調整する。 厚生労働省のパンフレットのP30のチェックリストを活用して、従業員に自宅の作業環境を整えるようアドバイスするのも良いでしょう。 厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」パンフレット まとめ VDT作業環境を整えるために企業がすることとして、①作業管理②作業環境管理③健康管理④安全衛生教育の4つをご紹介しました。快適に仕事ができる環境を整えるために、ガイドラインに沿って作業環境を見直すことから始めてみましょう。 なお、近年、高齢の労働者を含んだ幅広い年齢層の従業員が情報機器を扱うため、健康障害のリスクの種類も幅広くなり、VDT作業の管理は一層難しくなってきました。 もし、リスクアセスメントや対策を行う上で困ったことがあれば、産業医などの産業保健スタッフを活用すると、専門的な立場から職場の作業環境を確認して助言をもらうことができます。 従業員一人ひとりの心身の健康を守り、会社全体の生産性を向上させるために、自社に合った作業環境を作っていきましょう。 衛生管理体制の均質化に関する課題はエリクシアで解決! 全国及び海外に拠点を持つ会社において実現の難しい課題である「衛生管理体制の均質化」。 当社はノウハウや統括産業医を活用し、従業員ケアのコントローラーとして「均質化」支援を行っています。>詳しくはこちら
健康相談・メンタルヘルスだけじゃない!産業医が対応できる5つの相談ジャンルとは? 健康相談・メンタルヘルスだけじゃない!産業医が対応できる5つの相談ジャンルとは? 2021.9.27 産業医の選任/役割
健康相談・メンタルヘルスだけじゃない!産業医が対応できる5つの相談ジャンルとは? 健康相談・メンタルヘルスだけじゃない!産業医が対応できる5つの相談ジャンルとは? 2021.9.27 産業医の選任/役割