見えていますか?!4つのケアの繋がりと全体像

[シリーズ]徹底解説!職場のメンタルヘルス対策4つのケア~具体例も手順もわかる③~

4つのケアを繋ぐフレームワーク

このシリーズでは全3回に渡って、4つのケアの取り組み事例を挙げながら、誰が、どんな方法や手順でメンタルヘルス対策に取り組むのが良いのか、具体的に解説しています。1つ目の記事では、「4つのケアの役割と具体例」について、2つ目の記事では「4つのケアの理想的手順」について解説しました。

最終回となる今回の記事では、4つのケアを効果的に連動させるための一例として、「認知行動変容アプローチ」に基づいたフレームワークを紹介します!ここまで見てきた4つのケアの具体的内容や手順に加え、最後に4つのケアを効果的に連動させるための繋げ方を見ていきましょう。

[シリーズ]徹底解説!職場のメンタルヘルス対策4つのケア~具体例も手順もわかる~
1:大前提!職場のメンタルヘルス対策4つのケアの役割と具体例 
2:成否の分かれ道?!メンタルヘルス4つのケアの理想的手順とは
3:見えていますか?!4つのケアの繋がりと全体 ←今回はこちら

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この記事でわかること(目次)
  • 4つのケアを繋ぐフレームワーク
  • 4つのケアに共通して取り入れたい「認知行動変容アプローチ」
  • 認知行動変容アプローチの具体的取り入れ方
  • 4つのケアの連動させるフレームワーク
  • まとめ
  • メンタルヘルス対応に関する課題はエリクシアで解決!
  • すべて表示 

    4つのケアに共通して取り入れたい「認知行動変容アプローチ」

    「4つのケアは導入されたが、いまいち成果が見られない・・・」

    よく人事の方から聞くお話です。実はこの話には大きな問題が潜んでいることがあります。それは「仕組みが変わっても、労働者自身の行動はほぼ変わっていない」という問題です。結局、メンタルヘルスケアは仕組みを作った後、仕組みや知識に沿って労働者一人一人が行動することで成り立ちますが、人によっては、心の健康を守るような行動を全くしていないケースもあります。この問題は、研修を実施すれば解決することでもありません。研修で学んだことの受け止め方は人それぞれで、中にはあまり響かない人もいるからです。

    そこで注目されているのが、「認知行動変容アプローチ」です。認知行動変容アプローチはどんなものにも効く万能薬ではありませんが、この手法を取り入れているか否かでメンタルヘルス対策の成果に差が生まれるといっても過言ではありません。

    さっそく「認知行動変容アプローチ」について確認していきましょう。

    認知行動変容アプローチとは?労働者一人一人の意識を変えにいく

    メンタルヘルス対策を実行しても、結局労働者一人一人の行動が変わらなければ、成果は出ません。加えて労働者一人一人の行動を変えるためには、人事が一方的に情報を発信するだけでは不十分です。

    行動を変えるために必要なこと、それは「認知へ働きかけること」です。認知への働きかけとは、つまり「考え方や判断基準の枠組みを変えていくこと」です。

    例えば、4つのケアが導入された企業で、セルフケアとして睡眠の質を向上させるための健康情報が提供されるようになったとします。それだけで興味・関心を持って行動する人もいますが、中には、「本当にこの情報は正しいのかな?」「分かってはいるけどやる気が起きない」「どうせ意味がない」など、否定的に考える人もいます。

    このように、情報を取り入れて自分の行動を変えること、つまり行動変容の発生有無は、個人個人の認知(考え方・判断)に左右されます

    この「認知を変える」というハードルを越える一つの方法として注目されているのが、「認知行動変容アプローチ」です。

    認知行動変容アプローチを取り入れるメリット

    認知行動変容アプローチに基づいたセルフケアやラインケアを社員教育に導入すると、下記の様な面で効果が得られると、様々な研究で明らかにされてきています。

    認知行動変容アプローチを取り入れるメリット
    ・メンタル不調の発生予防
    ・生活習慣病の発生予防
     快適な睡眠習慣の定着
     適度な運動習慣の定着
     健康的な食生活の定着
     飲酒習慣の改善
    ・労働者のストレス対処能力の向上
    ・職場内外でのコミュニケーションスキルの向上
    ・生産性の向上

    認知行動変容アプローチの具体的取り入れ方

    では、4つのケアそれぞれに認知行動変容アプローチをどのように取り入れるのか、どんな効果があるのか、具体的に見ていきます。

    セルフケアの場合

    セルフケアは、通常研修を行う場合、“あるべき姿”や“やるべきこと”を伝えて終わりになることが多いです。

    研修内容が腑に落ちた受講者は普段の日常に活かすかもしれませんが、腑に落ちなかった人や自分には関係ないと思ったままの人は、何も行動が変わらないことも多いです。

    そんな「研修を受けても何も行動が変わらない人」を減らすために、認知行動変容アプローチの出番です。感情を動かすことや後日のサポートなどを取り入れることで、「日常の行動を変える」ところまでサポートします。

    【認知行動変容アプローチを取り入れたセルフケア教育の例】
    ・体験型研修
    情報の流し見ではなく、グループで話し合う、体を動かすといった能動的な構成で感情が動きやすく、認知や行動にも変化が起こる
    ・フィードバック型研修
    研修で受講者がアウトプットしたものに対し、後日、講師や専門家から個々にフィードバックを受けられ、直接行動を促す
    ・自己学習型研修
    研修の前後に取り組むワークが用意されていて、単発で終わらず繰り返し考える機会が増えることで、認知も徐々に変化していく

    ラインケアの場合

    ラインケアは、休職・復職の話や安全配慮義務など法令の話も含まれるため、管理職としておさえておくべきリスク管理の色が濃くなる場合が多いです。「やらなくてはならない」こととして義務的に動く管理職もいるかもしれませんが、リスク管理を強調されると、どうしてもやらされ感が強くなります。やらされ感によるラインケアでは、部下も心身を大切にされているとは感じにくく、効果的ではありません。

    そんな時に使えるのが認知行動変容アプローチです。管理職自身が「自分にとっても部下にとってもメリットになる、役立つ知識が得られた!」と感じ、能動的に行動したくなるようサポートします。
    内容として重視したいのは、コミュニケーションスキルが含まれるかどうか、です。

    上司のコミュニケーションスキルが、部下のメンタルケアや職場環境に大きな影響を与えることは、厚労省の報告書※等でも述べられています。上司が部下と良好な関係を築くコミュニケーションスキルを獲得し、そのスキルを現場で発揮できるよう後押しできる内容が含まれるとよいでしょう。

    【認知行動変容アプローチを取り入れたラインケア教育の例】
    ・ロールプレイ型研修
    様々な場面を想定した部下との対話を練習することで、コミュニケーションの違いが人間関係に与える影響を体感すると共に、対話のバリエーションを増やしていく
    ・ケーススタディ型研修
    様々なタイプの部下の心のパターンを知ることで、部下に対する理解や共感が促進され、コミュニケーションの質が向上していく

    参考平成22年度「職場の心理的・制度的側面の改善方法に関する調査研究委員会報告書」(厚生労働省・中央労働災害防止協会)

    事業場内の産業保健スタッフ等によるケアの場合

    事業場内保健スタッフは、セルフケア、ラインケアの施策を企画する上で、「スキル習得から実行」までデザインされているかどうかを常に見極める役目が求められます。

    この点において、認知行動変容アプローチが役立ちます。企画について、労働者が知識だけを受け取る研修内容になっていないか、労働者が自分から行動を変えていけるような要素が含まれているかをチェックします。また、施策の実施後は、どのくらい行動変容があったのか、効果検証を行うことも重要です。

    事業場外資源によるケアの場合

    事業場外資源によるケアを受けるタイミングは、メンタル不調者発生時や、休職や復職発生時が多いです。その際、認知行動変容アプローチの要素を取り入れている機関を選択すると、より高度なケアを提供してくれる場合があります。

    一例として、職場復帰を目指す労働者を対象に提供されている、認知行動変容アプローチを取り入れた復職後の再発予防プログラムを紹介します。

    【認知行動変容アプローチを取り入れた復職後の再発プログラムの例】
    ①導入と心理教育
    ②認知再構成法
    ③問題解決法
    ④アサーション
    ⑤再発予防

    ※参考:大野裕「認知行動療法と認知行動変容アプローチ~職域での活用可能性~」産業医学レビュー Vol. 34 No. 2 2021

    4つのケアの連動させるフレームワーク

    ここまで、4つのケアにそれぞれ、どのように認知行動変容アプローチを取り入れるのかを見てきました。最後に、これらを連動させるためのフレームワークを紹介します。

    下記の図は、4つのケアのフレームワークに当てはめた全体像です。どのように繋がっているのか、具体的には何を行うべきなのかを順番に見ていきましょう。

    ①認知行動変容アプローチを取り入れたセルフケア・ラインケアの実施

    セルフケアやラインケアを推進するにあたって、主な情報提供の手段は下記の通りです。
    ・教育資材配布
    ・eラーニングでの研修
    ・社内の集合研修

    セルフケアに関しては、労働者自らがメンタル状態のセルフチェックを行えるような仕掛けがあるとさらに良いでしょう。また、こうした研修を社内保健スタッフが実施することによって、スタッフの顔が労働者に知られるようになり、相談しやすい雰囲気が作れるので、4つのケアを連動させやすくなります。

    ②ストレスが継続しメンタル不調が発生した場合

    セルフケアやラインケアを実施していても、メンタルダウンの発生をゼロにするのは非常に難しいです。もしストレスが解消されずメンタル不調を起こしている労働者が発生した場合は、速やかに事業場内保健スタッフによる状況分析を行いましょう。分析の結果を踏まえ、必要な対応を決定します。

    社内でできる対応としては下記の通りです。
    ・産業医面談の設定、実施
    ・事業場内相談窓口の活用
    ・関係者との情報共有

    状態の深刻度によっては、社内で対応するよりも、下記の様な事業場外資源によるケアに繋げる方がよいケースもあります。
    ・医療機関受診
    ・外部相談窓口の活用

    なお、現場で起こりやすいメンタルダウンの傾向が分析できれば、その結果をセルフケア・ラインケアの企画に反映していくこともできます。事業場内保健スタッフの分析力は、4つのケアを連動させるポイントになると言えます。

    ③最終目標はセルフケア能力の底上げ

    セルフケア・ラインケアの意識が浸透し、学んだことを実践する人が増えれば、ストレスを感じている労働者はうまくストレス解消ができるようになっていきます。元々健康な社員であれば、ストレス解消によって身体的、精神的・社会的に更に充実することでウェルビーイング向上に繋がります。

    まずは労働者の行動が変わること、そして行動したことで成功、失敗といった経験が蓄積していくこと、これこそが結果的に労働者たちのセルフケア能力を底上げしていきます

    こうして4つケアが繋がりをもって機能すれば、セルフケア能力を備えた労働者がどんどん増えていくでしょう。

    まとめ

    今回の記事では、4つのケアに共通して取り入れると良い「認知行動変容アプローチ」や、4つのケアを体系的に繋ぐフレームワークについてお話しました。

    4つのケアを取り入れてはいるものの、どこかバラバラで連動していないと感じている方は、本記事の認知行動変容アプローチの考え方や、フレームワークを参考にしてみるとよいかもしれません。

    今回紹介した手法は一例です。自社にあった方法で4つのケアを繋げ、相乗効果を発揮できるメンタルヘルス対策を確立していきましょう。

    認知行動変容アプローチの考え方について更に詳しく知りたい方は、厚生労働省の「こころの耳」で学ぶことができます。
    参考:厚生労働省こころの耳「15分でわかる認知行動変容アプローチ1」
    参考:厚生労働省こころの耳「15分でわかる認知行動変容アプローチ2」

    [シリーズ]徹底解説!職場のメンタルヘルス対策4つのケア~具体例も手順もわかる~
    1:大前提!職場のメンタルヘルス対策4つのケアの役割と具体例 
    2:成否の分かれ道?!メンタルヘルス4つのケアの理想的手順とは
    3:見えていますか?!4つのケアの繋がりと全体 ←今回はこちら

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    この記事の執筆者:エリクシア産業保健チーム

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    この記事は、株式会社エリクシアで人事のお悩み解決に携わっている産業保健師チームが執筆し、産業医が責任をもって添削、監修をしました。

    株式会社エリクシアは、嘱託産業医サービスを2009年より提供しています。衛生管理体制の構築からメンタルヘルス対策、問題行動がある社員への対応など「圧倒的解決力」を武器に、人事担当者が抱える「ヒトの問題」という足枷を外す支援を行っています。

    【記事の監修】
    産業医 上村紀夫
    産業医  先山慧

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