傷病手当金の申請者発生!対象者や申請のプロセスなど基礎知識を解説

傷病手当金について確認しておきましょう

傷病手当金は、保険者である全国健康保険協会や健康保険組合に、被保険者が申請するものです。被保険者は「従業員」に当たりますが、会社が従業員の代わりに申請することが一般的です。従業員から傷病手当金の希望があれば、申請書類を準備したり、事業主の証明を記載したりと適切に対応する必要があります。

今回は、傷病手当金の支給要件や支給期間、申請の流れまで、人事担当者が押さえておくべき内容をご説明します。

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この記事でわかること(目次)
  • 傷病手当金について確認しておきましょう
  • ケガや病気で働けない従業員の味方、傷病手当金とは?
  • 健康保険法改正による支給期間の変更
  • 傷病手当金が調整される5つのパターン
  • 押さえておきたい傷病手当金申請の流れ
  • 過去にあったご相談を紹介!
    療養担当者の意見・見解を産業医が書くことはできる?
  • まとめ
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    ケガや病気で働けない従業員の味方、傷病手当金とは?

    傷病手当金とは、業務外の病気やケガで働けない間、被保険者とその家族の生活を保障するための制度です。支給対象や支給額、支給期間について押さえておきましょう。

    どんな人が対象?傷病手当金の支給要件

    傷病手当金は、次の①~④の条件の全てを満たした人に支払われます。

    ①業務外の病気やケガのための休業であること
    業務中や通勤途中の病気やケガの場合は、労災保険の給付対象になるため、傷病手当金は支給されません。業務外の病気やケガであれば、健康保険を利用した療養だけでなく、自費診療の場合でも働けないことについての証明がある際は、支給対象になります。

    ②働けないこと
    働けない状態であるかどうかは、医師の意見や従業員の仕事内容を考慮して判断されます。

    ③連続する3日間を含んで4日以上働けなかったこと
    仕事を休んだ日から連続して最初の3日間は待機期間となります。待機期間の3日間については、傷病手当金は支給されず、4日目以降の働けなかった日に対して支給されます。なお、待機の3日間には、土日や祝日などの公休や有給休暇も含まれるため、給与の支払いの有無は関係しません。

    ④休業した期間に給料の支払いがないこと
    働けない期間の生活保障を行う制度のため、給与の支払いがある場合、傷病手当金は支給されません。ただし、傷病手当金の額よりも給料が少ない場合には、その差額が支払われます。

    傷病手当金の支給額はどれくらい?

    傷病手当金の支給額は、およそ給与の3分の2です。基準となる給与の額は、手当金の支給を始める日より前の直近の継続した12カ月間の標準報酬月額を平均した額になります。

    1日あたりの金額は下記のように算定します。(健康保険法第99条第2項、第102条第2項)

    傷病手当金の支給額計算式_エリクシア作成

    なお、転職等により現在の健康保険の加入期間が12カ月に満たない従業員は、次のいずれか低い方の額を使用して支給額を計算します。

    [1] 支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均
    [2] 標準報酬月額の平均額
       ・協会けんぽの場合 30万円(2022年現在):支給開始日が平成31年4月1日以降の方
       ※当該年度の前年度9月30日における全被保険者の同月の標準報酬月額を平均した額

    引用元:全国健康保険協会

    健康保険法改正による支給期間の変更

    令和4年1月1日、健康保険法の改正がありました。改正によって支給期間の考え方が変更されたので、注意が必要です。

    以前の支給期間は、傷病手当金を支給開始した日から最長1年6カ月で、途中復職した期間についても1年6カ月に含まれていました。それに対して、令和4年1月1日より、支給期間は支給開始日から通算して1年6カ月になりました。

    ただし、支給開始日が令和2年7月1日以前の方については、改正された令和4年1月1日時点で1年5カ月が経過しているため、これまで通り支給開始日から最長1年6カ月です。令和2年7月2日以降に支給を開始した方については、通算するルールが適用されます。

    健康保険法改正による支給期間の変更_従来_エリクシア作成
    健康保険法改正による支給期間の変更_改正後_エリクシア作成

    傷病手当金が調整される5つのパターン

    先ほどご説明した支給要件に当てはまっていても、傷病手当金が減額されることや支給されないことがあります。傷病手当金を申請希望する従業員の置かれているシチュエーションは様々ですので、支給額が調整される5つのパターンを確認しておきましょう。

    ①給与の支払いがあった場合

    支給要件でもご説明したように、給与の支払いがあった場合には、傷病手当金は支給されません。ただし、休職中に給与の支払いがあっても、傷病手当金よりも給与が少ない場合にはその差額が支給されますので、ご注意ください(健康保険法第108条)。

    ②傷病手当金と出産手当金が同時に受けられる場合

    出産手当金が支給される場合は、その期間傷病手当金を支給しないことになっています(健康保険法第103条)。ただし、傷病手当金よりも出産手当金が少ない場合には、その差額が支給されます。

    ③老齢退職年金が受けられる場合

    退職して被保険者の資格を失っても、退職の当日まで継続して1年以上資格を有しているなど要件を満たしていれば、継続して傷病手当金の給付を受けることができます。ただし、老齢退職年金を受け取っている時は、傷病手当金は支給されません(健康保険法第108条)。なお、傷病手当金よりも老齢退職年金が少ない場合には、その差額が支給されます。

    ④労災保険から休業補償給付を受けていた場合

    過去に労災保険から休業補償給付を受けていた場合、同じ病気やケガで働けなくなった際は、傷病手当金の給付を受けることはできません。従業員の病気やケガがもともと労災保険の対象であったかどうか、注意が必要になります。

    ⑤障害厚生年金または障害手当金が受けられる場合

    傷病手当金を受け取れる期間が残っていても、同じ病気やケガで障害厚生年金または障害手当金を受ける場合には、傷病手当金は支給されません(健康保険法第108条)。ただし、傷病手当金よりも、障害厚生年金または障害手当金の額が少ない場合には、その差額が支給されます。

    ここまでは、傷病手当金の支給対象や要件、支給期間などの基本事項を確認しました。次の章では、傷病手当金の申請プロセスについてご説明していきます。

    押さえておきたい傷病手当金申請の流れ

    従業員の申請を会社が適切にサポートすることが大切です。申請の流れを確認しておきましょう。本記事では、引き続き全国健康保険協会のウェブページをもとにご紹介していきます。

    【参考】全国健康保険協会

    ※STEP2~4の順番に決まりはありません。

    STEP1:傷病手当金申請書を準備

    傷病手当金申請書の準備は、従業員と会社のどちらでも大丈夫ですが、会社で用意しておくと安心です。健康保険組合や全国健康保険協会の窓口に連絡して取得できます。全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合は、協会けんぽのWebページからも申請書をダウンロードできます。

    協会けんぽの申請書は4枚構成で、1・2枚目を従業員、3枚目を会社、4枚目は主治医が記載するようになっています。

    STEP2:従業員が被保険者用記入用紙を記入

    申請を希望する従業員が記入します。申請者の情報や、傷病手当金の振込先口座、傷病名、申請期間、仕事の内容といった必要事項を記載します。

    STEP3:会社が事業主用記入用紙を記入

    事業主の証明となる書類です。会社が勤務状況や給与の支払い状況について記載します。会社が勤務状況や給与の支払い状況について記載します。この書類によって、従業員が実際に仕事を休んでいたことや、給与の支払いが無かったことを証明できるのです。なお、退職した従業員からも、会社に記入依頼が来る可能性があります。

    STEP4:主治医が療養担当者用記入用紙を記入

    医師の意見・見解となる書類です。従業員が診てもらっている病院の主治医が記入します。初診日や労務不能と認めた期間、症状や経過など必要事項を記載します。この書類によって、従業員が健康上の理由で休みが必要であったことや、きちんと治療に取り組んでいることを証明します。

    STEP5:添付書類の準備

    添付書類は、従業員の状況によって異なるため、申請者ごとに必要な書類の確認が必要です。

    傷病手当金申請時の添付書類一覧_エリクシア作成

    【参考】全国健康保険協会

    STEP6:協会けんぽまたは健保組合へ支給申請

    傷病手当金申請書に必要な書類を添えて、全国健康保険協会または健康保険組合に提出します。

    過去にあったご相談を紹介!
    療養担当者の意見・見解を産業医が書くことはできる?

    産業医も医師免許を持った医師です。
    そのため、「産業医が療養担当者の欄を書いてくれたらなあ」と考えたことがある方もいらっしゃるかもしれません。社内で傷病手当金申請書の記入が完結したら楽ですし、場合によっては主治医が申請書類を書いてくれないといったケースもあり得ます。

    実際に、「主治医が申請書類を書いてくれないので、産業医に書いてもらうことは可能でしょうか?」といったご相談をいただくことがあります。このようなご相談に対して、「療養担当者の意見・見解を産業医が書くことはできない」というのが答えになります。

    産業医が記入できない理由はシンプルで、産業医が従業員の診療を行っていないからです。労働安全衛生法によって産業医の業務内容が定められており、その中に診療行為は含まれていないため、従業員を診察したり治療したりすることはできません。そのため、従業員の診療を行っていない産業医が、主治医に代わって療養の必要性や治療の経過といったことを証明できないのです。

    例外として、社内に診療所を持っている会社で、産業医が従業員の診療も行っている場合には、療養担当者の証明を記載することができるようです。

    なお、産業医と医師の違いについては、下記の記事で詳しくご説明しています。

    まとめ

    今回は、傷病手当金の基本について解説しました。人事担当者がスムーズに傷病手当金の申請を行うことは、休職中の従業員の安心につながります。いつ休職者が出ても大丈夫なように、支給要件や支給期間、申請のプロセスについて把握しておくことが大切です。

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    この記事の執筆者:エリクシア産業保健チーム

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    この記事は、株式会社エリクシアで人事のお悩み解決に携わっている産業保健師チームが執筆し、産業医が責任をもって添削、監修をしました。

    株式会社エリクシアは、嘱託産業医サービスを2009年より提供しています。衛生管理体制の構築からメンタルヘルス対策、問題行動がある社員への対応など「圧倒的解決力」を武器に、人事担当者が抱える「ヒトの問題」という足枷を外す支援を行っています。

    【記事の監修】
    産業医 上村紀夫
    産業医  先山慧

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