過重労働の時間管理に効果アリ!疲労蓄積度チェックリスト活用のすすめ 2022/01/06 2022/06/13 長時間労働管理 疲労蓄積度チェックリストの活用で長時間労働管理を確実に 長時間労働管理(過重労働管理)はなぜ必要なのでしょうか。その背景としては、近年働き方の多様化が進み、過重労働による健康被害の増加など、労働者の生命や生活に関わる問題が深刻化したことがあります。 過重労働は、疲労の蓄積をもたらし、健康障害のリスクを高める最も大きな原因です。実際に時間外労働が月45時間を超えると、脳・心臓疾患の発症との関連性が強まる、との医学的知見も報告されています。そこで厚生労働省では、平成14年2月に「過重労働による健康障害防止のための総合対策」を策定し、会社での時間外・休日労働の削減と、一定時間以上の時間外・休日労働(※時間外・休日労働時間とは、休憩時間を除き1週間当たり40時間を超えて労働させた時間)を行わせた場合の健康管理措置の徹底などを推進しています。 すべての事業者は、労働者にできるだけ疲労を蓄積させないように措置を講じる必要がありますが、労働者自身もまた、自らの疲労度を把握・自覚し、自己管理をしていくことが大切です。そのため、平成16年6月に労働者の疲労蓄積度を判定するためのツールとして、疲労蓄積度チェックリストが作成されました。今回の記事では、疲労蓄積度チェックリストを活用するメリットや活用時のフローなどを解説していきます。 この記事でわかること(目次)疲労蓄積度チェックリストの活用で長時間労働管理を確実に疲労蓄積度チェックリストとは?疲労蓄積度チェックリスト活用のメリット5ステップで理解!疲労蓄積度チェックリストの活用と面談実施STEP1:労働者ごとの時間外労働時間の把握STEP2:労働者や産業医へ時間外労働に関する情報を通知するSTEP3:疲労蓄積度チェックリストの配布・回収STEP4:医師による面談指導■STEP5:必要な措置の実施疲労蓄積度チェックリスト活用でよくあるお悩み例Q. チェックリストを渡しても回収できない場合は?Q. 心身の状態が悪いのに面談を受けたがらない従業員がいた場合は?Q. 時間外労働数100時間超えなのに面談を受けたがらない従業員がいた場合は?Q. 医師による面談指導を産業医ではなく、自分のかかりつけの医師に実施してもらいたいという希望がある場合は?まとめ過重労働管理に関する課題はエリクシアで解決!すべて表示 疲労蓄積度チェックリストとは? 疲労蓄積度チェックリストは、労働者の疲労蓄積度を判定するためのツールで、労働者の疲労がどのくらいたまっているのかを確認し、健康障害を予防するための自己対処を促したり、会社として取るべき措置について検討したりするために使用されます。では、実際に疲労蓄積度チェックリストを活用することで具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。 疲労蓄積度チェックリスト活用のメリット ■メリット1:労働者自らが自身の疲労蓄積度を把握し、自己対処につなげることができる チェックリストを記入することで自身の疲労がどの程度たまっているのか、現在の心身の健康状態などを知り、疲労の解消や時間外労働削減に向けた対処をするきっかけを作ります。 ■メリット2:健康障害のリスクが高い労働者を早期に発見でき、対処が可能になる チェックリストの結果からメンタルヘルス不調や身体へ健康障害をきたす可能性が高い労働者を早期に発見できます。会社は健康状態の悪化を未然に防ぐために業務の調整や職場環境の改善などの必要な措置を行い、時間外労働の削減に努めましょう。 ■メリット3:部署ごとの過重労働者数を把握することで、適正な人員配置につながる チェックリストから部署ごとの過重労働者数を把握し、人員が不足している部署へ増員したり、臨時で助人を派遣したりするなど、労働者一人あたりの業務負荷が大きくなり過ぎないように人員調整を図るための指標にもなります。 ■メリット4:会社全体で時間外労働を削減しようという意識づけになる チェックリストを活用することで、時間外労働に対する労働者自身への意識づけや、会社全体で時間外労働を削減しようという雰囲気を作るためのきっかけにつながります。 5ステップで理解!疲労蓄積度チェックリストの活用と面談実施 どのような人にチェックリストを配布するのか、配布した後会社はどのような対応をすればよいのかなど、チェックリストの活用とその後の対応など、具体的なフローを5ステップにまとめました。順番に解説します。 STEP1:労働者ごとの時間外労働時間の把握 労働安全衛生法第66条の規定に基づき、事業者はタイムカードによる記録、パソコン等の電子計算機の使用時間(ログインからログアウトまでの時間)の記録など客観的な方法により労働者の労働時間の状況を把握しなければなりません。労働時間の状況の記録は3年間の保存が必要です。 STEP2:労働者や産業医へ時間外労働に関する情報を通知する 事業者は、時間外・休日労働時間の算定を行ったら、月80時間を超えた労働者本人に対して、速やかに超えた時間に関する情報を通知しなければなりません。通知する対象者としては高度プロフェッショナル制度対象の労働者を除き、管理監督者や裁量労働制の労働者を含めた全ての労働者に通知します。 STEP3:疲労蓄積度チェックリストの配布・回収 時間外労働時間数が月80時間を超えたすべての労働者へチェックリストの配布・回収をし、疲労蓄積度の確認を行います。このチェックリストを配布する時間基準の設定については上限が80時間以上となります。時間設定については会社ごとで異なり、健康管理に力を入れている会社や過重労働を減らしたい会社などの場合、例えば時間外労働時間数が月45時間以上という基準で配布している会社もあります。 厚生労働省作成の疲労蓄積度チェックリストはこちらから(厚生労働省のページへ移動) 配布する対象者は、取締役や監査役、会計参与といった勤怠管理が不要な役員を除き、勤怠管理を必要とするすべての労働者が対象です。特に注意していただきたいのが、管理監督者です。管理監督者は残業代が出ないため勤怠管理が不要と誤解されやすいですが、管理監督者も健康管理を必要とするため、勤怠をつけ時間外労働数をカウントしなければなりません。また、裁量労働制の労働者についても同様に実労時間をカウントし過重労働管理を行う必要があります。 STEP4:医師による面談指導 労働安全衛生法によりすべての事業者に対して、過重労働者へ医師による面談指導を行うことが義務付けられています。医師による面談は、過重労働により疲労が蓄積し健康障害の発症リスクが高い労働者に対して問診やその他の方法により健康状況を把握し、状況に応じて労働者本人に対して面談指導を行うとともに、面談結果をふまえてその後の会社の措置につなげることを目的に行います。 【医師による面談指導の具体的な流れ】 ①面談対象者の選定 法定労働時間の週40時間を超える労働時間が月80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められるときは、当該労働者の申出を受けて、医師による面談指導を行わなければなりません。(ただし、1カ月以内に面接指導を受けた労働者等で、面談指導を受ける必要がないと医師が認めた者を除きます。) 時間外労働数が月100時間を超える労働者に対しても必ず面談を設定するようにしましょう。また、労働者から面談の申し出がなくても、上司や人事担当にて面談が必要と判断した者や月45時間を超えるもので健康への配慮が必要な者、会社が指定する時間外労働数を超えた者(例えば月60時間以上が3カ月連続など)、などについても面談を設定することが望ましいです。 ②面談の設定 面談指導を実施する医師としては、産業医や産業医の要件を備えた医師など、労働者の健康管理を行える医師が望ましいとされています。 ③申請書類の準備 労働者が面談希望の申し出を行う際の様式を作成しておくようにしましょう。疲労蓄積度チェックリストの中に面談希望の有無を問う欄を設けることも可能です。 ④面談指導の周知 事前に労働者に対して、医師による面談を希望する人には面談を設定することができる旨を周知するようにしましょう。現状として、過重労働者は自発的な面談の申し出がなかなかしにくいことがあるので、自発的な申し出がないからといって面談を不要とすると安全配慮義務違反となる可能性があります。面談が必要そうな労働者へは事業者側からできるだけ面談を受けるように勧奨する必要があります。 ⑤医師と面談日時の調整 面談を行う労働者が決まったら、面談指導を実施する医師と日時の調整を行います。面談を行う目安としては労働者から申し出があってから1カ月までに実施するようにします。また、面談は原則的に就業時間内で行うようにしましょう。 ⑥医師から意見を聴取 事業者は面談指導を実施した医師から、労働者の健康保持のために必要な措置について意見を聴かなければなりません。医師による面談指導の記録は、医師からの報告をそのまま保存することも可能です。 ■STEP5:必要な措置の実施 事業者は医師から必要な措置について意見を聴取したら、その意見を参考に下記のような措置を実施していきます。 ・時間外・休日労働時間の削減・就業場所の変更、業務内容の確認と調整・深夜業の回数削減・年次有給休暇の取得促進・健康管理に係る措置(健康診断の実施など) など 疲労蓄積度チェックリスト活用でよくあるお悩み例 疲労蓄積度チェックリストを活用するにあたって担当者の方からよく聞かれる質問やお悩みをまとめました。今回は4つ紹介します。 Q. チェックリストを渡しても回収できない場合は? A. 疲労蓄積度チェックリストを配布し、何度か提出を促しても回収できない場合は、口頭で従業員の健康状態の確認をするようにしましょう。睡眠時間や睡眠の質が悪化していないか、気分の落ち込みの有無や普段と変わったことがないかなどを確認していきましょう。 Q. 心身の状態が悪いのに面談を受けたがらない従業員がいた場合は? A. 心身の状態が悪いのに面談を受けたがらない従業員がいた場合は、面談の必要性をしっかりと説明し面談勧奨を行うようにしましょう。それでも面談を受けない場合は、心身の健康状態を疲労蓄積度チェックリストや口頭などで確認し、危険なサインが出ていたらすぐに病院を受診するように働きかけてください。 Q. 時間外労働数100時間超えなのに面談を受けたがらない従業員がいた場合は? A. 労働安全衛生法では、「労働者は事業者が行う面談指導を受けなければならない」とされていますが、面談時間がとれないほど忙しい場合や面談指導を行った分さらに業務時間が延びると思っている労働者もいるためなかなか面談指導を受けたがらない人も多いのが実情です。 月100時間を超えているが、面談を受けたがらない従業員がいた場合は、業務時間内で面談が実施できるように業務量や時間を調整したうえで、面談の必要性をしっかりと本人へ説明し面談勧奨を行うようにしましょう。 それでもどうしても面談を受けたがらない場合は、疲労蓄積度チェックリストや口頭などで従業員の方の心身の健康状態に異常がないことを確認し、最悪面談の実施を見送ることもやむを得ないかもしれません。必ず会社が可能な限りの対応を試みたというエビデンスを残すようにしましょう。 Q. 医師による面談指導を産業医ではなく、自分のかかりつけの医師に実施してもらいたいという希望がある場合は? A. 労働者は、基本的に事業者が行う面談指導を受ける義務があります。しかし、事業者の指定した医師が行う面接指導を受けることを希望しない場合は、他の医師による面談指導を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出することも可能とされています。 ※過重労働については、こちらの記事でも解説しています。 長時間労働管理とは?管理すべき時間の基準と会社対応 まとめ ここまで、疲労蓄積度チェックリストを活用するメリットと活用のフローについて解説していきました。疲労蓄積度チェックリストは時間外労働時間が月80時間を超えた労働者に対して必ず配布し、疲労の蓄積度を把握するようにしましょう。また、その中で、医師による面談を希望する者には必ず産業医面談を設定し、医師の意見を聞いたうえで必要な会社対応を検討しましょう。なお、厚生労働省の意向では、月80時間超の時間外・休日労働を行った者については、申出がない場合でも面接指導を実施するよう努めることとし、月45時間超の時間外・休日労働で健康への配慮が必要と認めた者については、面談を行うことが望ましいとしています。管轄の労基署によっては、月100時間のラインではなく、月80時間超えの対象者に対して面談をしていない場合指摘が入ることも過去事例で見られています。法定の基準より一段階厳しめにフローを構築しておくと、労働者の健康管理の面からも会社の労務管理の面からも安心でしょう。 過重労働管理に関する課題はエリクシアで解決! 過重労働の扱いは厳しくなっています。エリクシア産業医サービスでは、従業員の心身の体調リスクだけではなく、会社のリスク管理を徹底する事にも焦点を当てた運営支援を行います。>詳しくはこちらへ