長時間労働管理とは?管理すべき時間の基準と会社対応 2021/09/20 2024/03/17 長時間労働管理 長時間労働管理とリスク管理のポイント 従業員の残業時間の管理は、給与計算のためだけに行っていませんか。長時間労働の管理は、従業員の健康管理に等しく、これを放置すると健康状態に悪影響を及ぼすだけでなく、会社としての責任を問われるリスクがあります。ここでは、長時間労働管理について説明するとともに、長時間労働に関連した会社のリスクについて説明していきます。 この記事でわかること(目次)長時間労働管理とリスク管理のポイント長時間労働管理の基本と基準をおさらい「長時間労働」や「過重労働」の法的位置づけ長時間労働管理が重視されている社会的背景長時間労働管理の目的 主な3つ管理すべき時間の基準は?長時間労働管理で会社が対応すべき3つのポイントその1 労働時間の状況を把握その2 面談対象者の抽出その3 面談後の事後措置について面談を受けたがらない場合は?面談情報を上司へ共有する際は、予め共有してよい情報範囲を確認会社のリスク管理のポイント2つポイント1 36協定・特別条項の有無は必ず確認ポイント2 安全配慮義務の観点で管理を行うまとめ過重労働に関する課題はエリクシアで解決!すべて表示 長時間労働管理の基本と基準をおさらい 長時間労働管理についての基本と、管理すべき時間外労働時間の基準を確認していきましょう。 「長時間労働」や「過重労働」の法的位置づけ 過重労働や長時間労働とは何時間以上の残業を指すのでしょうか。 現在、これらについて法的にはっきりとした定義はなく、労働基準法で定める時間外労働の上限を超えたり、労災認定基準に該当したりする労働時間を過重労働や長時間労働と捉えることが多いようです。 労働時間は労働基準法第32条により、1日8時間・週40時間以内と決められています。企業と労働者の間で、労働基準法第36条による協定(36協定)を結び、労基署に届け出なければ、残業そのものが違法となります。36協定を結ぶことで、「月45時間・1年360時間」(限度時間)以内の残業が可能(※)になります。 特別条項付き36協定を結ぶことで、臨時的な特別な事情がある場合に限り、限度時間を超えた時間外労働も可能になりますが、それでも時間外・休日労働が月100時間を超えること、2~6か月平均で月80時間を超えることなどは認められていません。 また、時間外労働や休日労働が多いほど、脳・心臓疾患との関連性が高まるとされており、労災認定においても月100時間または2~6か月平均で月80時間を超える時間外労働は、それだけで業務と発症との関連性が強いと評価される傾向にあります。 以上のような背景から、「月100時間以上」や「月80時間超」の時間外労働を過重労働や長時間労働と捉えることが多いようです。 ※1年単位の変形労働時間制を導入している場合、残業時間の上限は月42時間、年320時間となります。 長時間労働管理が重視されている社会的背景 では、なぜこれほどまでに過重労働、長時間労働に対する管理が注目されているのでしょうか。およそ50年ほど前の日本社会では「モーレツ社員」に代表されるように、家庭やプライベートは二の次で会社のために働きまくる時代がありました。その後バブル崩壊を経て、「打ち込む仕事」から、「生活や安定のための仕事」といった形に価値観は変化していきました。そして1990年代に入ると、過労死やメンタルヘルスが社会問題化し、過労死認定、過労死訴訟といった労働災害に関連した訴訟が増加しました。2000年代に入ると、過労死認定は一層増加し、自殺事案や精神障害の増加も影響し、社会全体で対策の検討が進みました。そして、2014年に「過労死等防止対策推進法」が成立し、2019年4月から大企業を対象に、2020年4月から中小企業が対象に時間外労働上限規制が設けられました。 長時間労働管理の目的 主な3つ 長時間労働管理の主な目的は、簡単に述べると3つが挙げられます。 1.健康障害の防止 何よりも働く人の心身の健康を守ることが大きな目的にあります。長時間労働は、労働の負荷そのものを大きくするだけでなく、疲労回復に必要な睡眠時間や休養時間、家庭生活・余暇の時間を減少させます。 長時間労働の背景には、仕事の量的な課題だけでなく、仕事の要求度が高いといったプレッシャーや業務密度といった質的な課題が存在することも多くあります。業務による肉体的疲労感だけではなく、精神的負担も当然疲労蓄積の原因となります。この疲労蓄積が継続することにより、脳・心臓疾患への影響、精神障害や自殺といった影響、その他過労性の健康障害(例:胃炎、過敏性大腸炎、腰痛、睡眠障害、月経障害)や事故・怪我を招く可能性が高いとされています。 2.労働参加率の向上 労働参加率は、生産年齢人口に占める労働力人口の割合を指します。現在、日本の人口は減少の一途をたどっており少子高齢化が起きていることは言うまでもありません。そこに、長時間労働という課題がある場合、結婚、出産、育児、介護を機に、仕事と家庭の両立が困難となり、働きたいけど働けない状況を生みます。また、労働時間が長いことは、男性の育児参加や、女性のキャリア形成を阻むことにもなります。長時間労働を是正することは、少子高齢化により生産年齢人口が減少している日本において、労働人口の割合を維持する重要な対策と考えられています。 3.就業機会の拡大と選択 働く人々の背景は多様化しており、結婚や子育てをしながら働く共働きも増加しています。また、少ない労働人口をシェアしながら企業活動を行う時代に突入しています。働く人の個々の事情に応じて、多様な働き方を選択できる環境を整えていくことで、企業にとっても労働者にとっても、Win-Winな姿を目指していくことが今後一層求められていきます。新型コロナウイルスの流行により働き方が変わった今、一部の業種・職種を除いては、在宅勤務やフレックスタイム制、時間単位有給の取得、副業など、社員が働き方を柔軟に選べる環境整備が今後より一層求められることが考えられます。画一的な働き方から、多様な働き方にシフトする上でも長時間労働は是正していき、働きやすい環境で生産性の向上を目指していくことが求められています。 管理すべき時間の基準は? 長時間労働や過重労働で管理する時間外労働時間は法定外の労働時間です。労働基準法第32条により、原則として事業者は1日8時間、週40時間を超えて労働させてはいけないとされています。 上記の法律で定められた労働時間を超えて働いた時間のことを「法定外労働時間 」と言います。 会社が1日8時間週40時間を超えて労働者に時間外労働や法定休日に労働をしてもらうためには36協定や特別条項付き36協定を結ぶ必要があり、それらも法律によって上限が定められています。 36協定 36協定では、時間外労働の上限は原則として月45時間・年360時間(※)であり、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることはできません。なお、36協定の限度時間は時間外労働の限度時間であり、休日労働の時間は含まれません。 ※1年単位の変形労働時間制を導入している場合、残業時間の上限は月42時間、年320時間となります。 特別条項付き36協定 臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合、特別条項付き36協定を結ぶことができます。しかし、その場合にも以下の上限を守らなければなりません。 ・時間外労働が年720時間以内 ・時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満 ・時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4カ月平均」「5カ月平均」「6カ月平均」が全て1か月あたり80時間以内 ・時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6カ月まで 36協定のみ結んでいる際に注意すること 特別条項の有無に関わらず、1年を通して常に、時間外労働と休日労働の合計は、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内にしなければなりません。例えば、時間外労働が44時間で36協定の限度時間に収まっていても、休日労働が56時間となり、合計が月100時間以上になると法律違反になります。 長時間労働管理で会社が対応すべき3つのポイント 長時間労働は脳や心臓疾患との関連性が強いとされていることから、労働安全衛生法第66条の8によって、会社は該当する労働者に対し、医師による面接指導を行うことが義務付けられています。長時間労働に該当する労働者の健康状態を把握して、適切な措置を行わなければなりません。会社が行うべき、長時間労働者への対応を確認していきましょう。 その1 労働時間の状況を把握 会社は長時間労働者の面談を実施するために、タイムカードの記録やパソコンの使用時間の記録などの客観的な方法によって、従業員の労働時間の状況を把握する必要があります。さらに、把握した労働時間の状況の記録を作成し、3年間保管しなければなりません(労働安全衛生規則第52条の7の3)。どれだけ法定時間外労働を行っているか単月で注目するだけでなく、1年を通して残業時間が36協定に抵触してないか注意して把握しましょう。 その2 面談対象者の抽出 法律で定められている面談対象者 労働安全衛生法では、月80時間を超える時間外労働や休日労働をした従業員に疲労が蓄積し、従業員から面談の申し出があった場合は、医師による面談を行うことが会社の義務とされています。また、研究開発業務従事者や高度プロフェッショナル制度対象者については、1か月の時間外・休日労働時間が100時間以上となった場合には、申し出がなくても面接指導を行わなければなりません。 なお、厚労省では月80時間超の時間外・休日労働を行った者については、申出がない場合でも 面接指導を実施するよう努めることとし、月45時間超の時間外・休日労働で健康への配慮が必要と認めた者については、面談を行うことが望ましいとしています。また、会社で独自に定めた基準に該当する労働者に面談を実施することは努力義務とされています(労働安全衛生法第66条の9)。過重労働管理に積極的に取り組みたい場合は、法律で定められている時間よりも厳しく面談の対象とする法定外時間外労働時間を設定し、産業医の面談につなげると良いでしょう。疲労の蓄積度や健康状態をチェックする問診票を活用することもお勧めです。 問診票の配布 労働時間を把握し、長時間労働者には問診票を配布して疲労がどれくらい蓄積しているか、面談の希望があるかどうかを確認しましょう。 問診票を配布する対象者を設定する際、法律を満たすには時間外労働が80時間越えの従業員ですが、会社として過重労働の防止に積極的に取り組みたい場合には、「60時間越えの従業員に問診票を配布する」というように、80時間よりも短い時間で設定すると良いでしょう。問診票を作成する際には、厚労省が労働時間に関するチェックリストや疲労蓄積度のチェックリスト、心身の健康状況、生活状況の把握のためのチェックリストなどを公開していますので参考に作成するのも一案です。 問診票が従業員から提出されたら、その内容をもとに産業医に面談対象者を選定してもらいましょう。 その3 面談後の事後措置について 産業医の面談を実施して終わりではなく、会社は面談後にも実施すべきことがあります。 医師からの意見聴取 面談を行った従業員の健康を守るために必要な措置について、医師の意見を聴かなければなりません(労働安全衛生法第66条の8第4項)。医師の意見に基づいて会社が実施すべき措置としては、労働時間の短縮や就業場所の変更、作業の転換、深夜業の回数の減少などが挙げられます。 面談記録の保管 長時間労働者と医師の面談の記録は5年間保管しましょう。 ※産業医との面談についてはこちらの記事で解説しています。 産業医とは?産業医の役割と8つの仕事内容 面談を受けたがらない場合は? 本人が希望していないにも関わらず、無理に面談を受けさせることはできません。面談を受けたがらない場合には以下3つの対応を行い、面談を勧奨しましょう。 ①面談を受けたくない理由を聞き、対応する 従業員から「業務が忙しくて面談を受ける余裕がない。」「医師との面談はハードルが高い。」「健康に不安があって会社に知られたくない。」などの理由が出てくることが考えられます。従業員が面談を受けない理由に対して対処し、安心して面談を受けられる環境を整えるようにしましょう。 ②会社に義務付けられた面談であることを伝える 会社には過重労働面談の実施が義務(労働安全衛生法第66条の8、労働安全衛生規則第52条の2)付けられています。従業員に面談は義務付けられていませんが、過重労働面談は従業員の安全や健康のために法律で定められた面談であることを伝え、面談の必要性を理解して協力してもらうようにしましょう。 ③過重労働面談を受けるメリットを伝える 過重労働面談を何のために受ける必要があるのか、従業員が理解できていないことも考えられます。 面談を受けることで、長時間労働による健康障害を早期に発見でき、心身が不調に陥る前に必要な業務調整を行うこともできるというメリットを伝えて面談を促しましょう。 なお、産業医は該当する労働者に対して面談の申出を行うよう勧奨することができる(労働安全衛生規則第52条の3)とされているため、産業医から面談を促すことも一案です。過重労働面談を行っていないと労基署から指摘される恐れがありますが、どうしても面談を拒否する従業員がいる場合には会社として面談をしっかり促したというエビデンスを残すようにしましょう。 面談情報を上司へ共有する際は、予め共有してよい情報範囲を確認 面談した結果、面談対象者の管理監督者である上司まで情報共有を行いたい場合があると思います。時間外労働削減のためには、上司が過重労働に対する意識を変え、時間外労働が過重にならないよう配慮することが大切です。人事から面談対象者の上司へ情報共有すること自体は問題ない行為ですが、面談の内容を共有する際には、本人や面談を行った産業医へどこまで情報を共有してよいか予め確認の上、共有するようにしましょう。 産業医が面談し、会社へ情報共有する際に、ある程度本人の同意や意向は確認していますが、後々「上司に言わないでほしかった」とトラブルにならないよう、本人同意がある情報の範囲を考慮して情報共有を行うことが重要です。 会社のリスク管理のポイント2つ 長時間労働によって引き起こされる健康障害は過労死や過労自殺などにつながる恐れがあります。労働時間を適切に管理せず長時間労働を放置していると、会社として責任を問われるリスクがあります。過重労働管理におけるリスク管理のポイントをご説明します。 ポイント1 36協定・特別条項の有無は必ず確認 36協定を結ばずに法定労働時間を超える時間外労働や休日労働をさせたり、36協定の上限時間を超えて時間外労働をさせたりしてしまった場合は、違法な時間外労働になり、労働基準法上の「使用者」(事業経営者や一定の権限を与えられている管理職)が罰則の対象になる可能性があります。 罰則としては「6カ月以上の懲役または30万円以下の罰金」となっています。 また、「社会的に影響力の大きい企業」「違法な残業が相当数の労働者に認められる」「複数の事業場で繰り返されている」など一定の要件に該当する場合には、その企業名が労働局のウェブページと厚生労働省のウェブページで公表されています。いわゆるブラック企業として認識されてしまう恐れがあり、長時間労働を放置していると会社のイメージダウンにもつながります。 ポイント2 安全配慮義務の観点で管理を行う 会社には、従業員が安全で健康に労働できる環境を整えるよう配慮する安全配慮義務があります。安全配慮義務には、「長時間の労働をさせない」ということも含まれています。この義務に違反すると民事上の損害賠償責任を問われることがあります。 安全配慮義務違反となる長時間労働 厚労省が出す脳・心臓疾患の労災認定基準では労働時間の評価の目安が示されています。 ・発症前1か月間に100時間を超える時間外労働 ・2か月から6か月平均で月80時間を超える時間外労働 ・上記水準は至らないが、これに近い時間外労働に加えて、一定の労働時間以外の負荷要因(※) ※勤務時間の不規則性(拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務)、事業場外における移動を伴う業務(出張の多い業務、その他事業場外における移動を伴う業務)、心理的負荷を伴う業務、身体的負荷を伴う業務、作業環境(温度環境、騒音) 精神障害では1か月あたり100時間程度の時間労働があった場合というように評価基準が示されています。 まとめ 過重労働による従業員の心身の健康障害はじわじわと引き起こされます。長時間労働を放置していると、会社として大きなリスクを背負うことに繋がりかねません。法定労働時間(1日8時間週40時間)を超えて労働させるためには、36協定を締結し、労働基準監督署へ届け出ることが必要です。就業規則等で労働時間の定めが記載され、労働契約の内容と合っていること、また実態として労働時間の上限を超えた働き方がなされていないか確認し、管理していくことも重要になってきます。勤怠システムなどを活用してきちんとログを残し、適切な方法で労働時間の管理を行いましょう。また、残業が多い労働者に対しては、問診票を活用した健康状態の確認や、産業医面談を通じて、心身の健康状態に問題がないか確認することが大切です。長時間労働管理は法律で定められている枠が多いため「会社の義務」として取り組むことが重要です。健康障害を予防するための対策、万が一問題が生じた際の対処などフローを整えていきましょう。 過重労働に関する課題はエリクシアで解決! 過重労働に関する管理すべき時間の基準や会社対応は厳しくなっています。 当社産業医サービスでは、従業員の心身の体調リスクだけではなく、会社のリスク管理を徹底する事にも焦点を当てた運営支援を行います。>詳しくはこちらへ
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